大正期浅草。明治時代に建てられた凌雲閣、通称十二階と呼ばれる建物が
あった。その十二階の付近にはマッチ箱のような建物が密集した十二階下
と呼ばれる私娼窟があった。
その私娼窟へと通う冷やかしと、遊女の何気ない会話。そしてちょっと
したお遊び。遊女達の地獄のような毎日の中で繰り広げられたふとした日常。
そんな日常の中で起きた突然の悲劇。
この話は関東大震災前後の浅草、十二階下を舞台とした物語です。
今回のこの話は、凌雲閣、十二階という建物を中心にした物語を書こう
としてました。なんですがそれは一応保留ということにしたので、この話
を書くために読んでた本の中であった十二階下の話を書いてみようとなった
のでした。
浅草は私にとっては近所であるんですが、この十二階と呼ばれる塔のことは
全然知りませんでした。昔こんな塔があったのか、というので興味を持ち
色々調べることにしました。
写真でみた時、途中で折れた十二階に驚いたり。どうも関東大震災の時に
折れてしまい、しばらく放置されていた、とのことでした。被害が甚大すぎて
手が回らなかったようです。
ではこの倒されなかった期間を題材にした話を書こう!と思ったのが最初
でした。これが保留した話。今回のものは浅草について書かれた本の中で
十二階下という私娼窟で、遊女達に張り付いて30分動かず話し続けた
冷やかし、素見(ぞめき)という人がいた、というのを元に書いています。
この十二階下には意外と有名人も色々と来てたようです、竹久夢二とか。
私娼窟というのは許可なく勝手にやっている所。公娼は許可がある所。
公娼では梅毒の検査などもやってるそうですが、私娼の方はそういうのも
ないらしく、ひどい有様だったようです。その代わり決まりもなく、安くて
複雑な段取りもない十二階下は隠れた名物となってたそうです。
大正辺りの当時の浅草は文化の一大拠点として、大いに賑わっていたようです。
当時の活気を写した写真もありましたが、ひどい密集状態でした。今の日本でも
ああいう場所はないんじゃないでしょうか。
というわけで当初は崩れた十二階を題材にした話「青の階段」という話を
書く予定でした。昭和モダンシリーズ第二弾として。保留にしたのでどうし
ようかと考えてたのですが、赤色哀歌→青の階段の真ん中ということで
紫色っぽい名前がいいだろう。ということで菫色(すみれいろ)となりました。
談笑は遊女と冷やかしの会話を中心に展開したら面白いかなぁということで。
小粋な会話というのを考えるのが結構手間取りました。あとは出来る限り当時の
浅草を感じられるよう細かく描写を入れるよう心がけました。結果苦労しましたが
自分的には良いものになったんではないかと思います。
浅草は地元であり、調べれば調べるほどに面白い。「青の階段」の方も近いうち
に完成させたいなぁと思っています。
あ、そういえば今作品で記念すべき10作目となりました。もう10回も出してた
のかと思うと感無量です。最初の失敗から考えれば一応成長していると思いたいです。