ある国に獅子王と呼ばれる王がいた。王の名前はアサド。
彼の王は武勇すさまじく、慈悲は深く、民から愛された。
詩人メンカールは語る。獅子王アサドの誉れを。
称えよ王を 獅子王アサドを 我らすべてに救いあれ
この話は獅子王アサドの活躍をまとめた物語群である。
† 水売りガイマとその息子ナダの物語
† 大臣と女奴隷
† 邪視と短剣アズワット
の3本立て。それとコラム(通貨単位、奴隷制度、邪視)があります。
††† 表紙下のアラビア語はグーグル翻訳です(正しいかどうかわからない)
アラビア文学と言うとまずは「千夜一夜物語」が筆頭にあがるかと思います。 私は昔から不思議な話などは好きでアリババやシンドバッドなど日本でもよく 知られる話には心躍らせたものでした。ちょっと残酷なのもありますが。
ちくま文庫のバートン版の千夜一夜物語を手に入れて後半部分まで読んでは いたのですが(後半1,2巻まだ読めてなかったり)どの話も興味深くとても 面白いものでした。様々な話があって、それこそ宝石箱のようでした。 中東の歴史や文化等も興味深い。私はいつかこれらの話のような魅力的な 話を書いてみたいと思っていました。
文学フリマ17へ出す書き物を考えていた時、当初は妖精話を仕上げる つもりでした。しかしニンジャスレイヤーという活劇小説を見たときに アラビアを舞台にした活劇小説なら面白いものになるんじゃないか?と 突然思い立ち、構想練ってみたのでした。それが獅子王アサドです。
名前は以前手に入れていたネーミング辞典というものからアラビア語 の単語を引いてそれぞれ当てはめています。アサドは獅子という意味。 後々で考えたら実際にアサド政権とかありましたね。
詩人メンカールはくちばしと言う意味。言葉を語りさえずるという 感じでその職業などに応じてそれっぽい単語を当てはめています。
獅子王と短剣と銘打っているので要所要所で†(ダガー符)が入れて あります。区切りの記号で使ったり、また王の短剣投げの場面で 入れてあります。† † † と離れてる場合はだいたい 短剣を投げた場面描写となっています。
今回は三話仕立てです。当初はアラビア活劇で大暴れものにしようかと 思ってたのですが、アラビア文学ぽいものをどうしても最初に入れ たかったので活劇らしさはないですがそういう話になっています。
††† 水売りガイマとその息子ナダの物語 †††
アラビア地方は水が貴重で権力者は水を豊富に持っていることが ステータスともなっていました。「マカーマート」と呼ばれる 散文文学というものがあり、これも色々な話が詰まったものなのですが 順番にも色々配慮してあるようで、私もちょっとはそれを習おうと アラビアに欠かせないもので、もっとも根源的な恵みである水の話 を最初に持ってくることにしました。最初ということでアラビア文学的 なものも入れたいと色々欲張ってしまいました。話としては地味 ですが雰囲気は出たのではないかと思います。
また料理の記述もちょっとくどいくらいになっています。そして 舞台は千夜一夜物語のハールーン・アル・ラシードらへん700〜800年 頃を想定していますが、料理に関しては現代のものをそのまま記述 しています。したがって700年前後の時代に無いものも当然のように 出てきてしまっています。これは現代の料理のほうが想像しやすい だろうとわざとそうなっていますので、違和感を感じた人には申し訳 ないです。たとえば最初のホレッシュ(煮込み料理)には材料にトマトが 表記されてます。しかしトマトは新大陸発見後に流入するものなので 当時にトマトはありません。
††† 大臣と女奴隷 †††
ちくま文庫版の千夜一夜物語は独特の言葉も多数ありました。 大臣はワジールだったかな。よく出てきたように思ったので大臣の話 も入れることにしました。こちらは意地悪大臣達ですが。 女奴隷の話も色々あり、ヨーロッパの黒人奴隷のような単純労働力 のようなものでないとあって、非常に驚いた覚えがあります。 これも魅力的な話が多いので入れたかった話のひとつでした。
活劇と銘打って起きながら一話目はまるで活劇らしくなかったので ちょっとした戦闘シーンも入れることにしました。馬にはメイスを (叩くことを目的とした鈍器)付けているとある本に書いてあった のでそれを使用。かなり変わった戦闘場面になってるかもしれません。
††† 邪視と短剣アズワット †††
千夜一夜物語の中でも不思議な話、あるいは魔法的な話というのも 色々あります。そういう話もひとつ入れたいと思い邪視の話にすること にしました。視線は相手を不運にする、ような視線に強力な力があると アラビアの方では考えられていたようです。邪視避けのおまもりなどは 色々あるようです。
戦闘シーンは入れたもののまだ足りないような気がしたので 戦闘訓練シーンを入れました。考えてみたら活劇的なものは戦いや 冒険がないと成り立たないんですよね。まぁでも戦闘にも色々ある と思うのでこういう変わった戦闘シーンも色々あっていいのでは ないかと思ってしまうのでした。
ハンマーム、蒸し風呂ですがこの表記は読んでた千夜一夜物語で こう書かれていました。しかし他の本ではハマムの方が多いような 気がします。もしかしたらハマムの方が正しいのかもしれませんが 読んだ時になじんでしまったハンマーム表記にしてしまってます。
トルコ王朝の展覧会があってそれを見に行ったのですが、ハンマーム に使う豪華な靴が展示してありました。ちょっと靴底が高く、金銀で 豪華に彩られた立派な靴でした。
短剣アズワッドのアズワットは黒という意味です。短剣は力の象徴 でもありますが、成人し分別がついたものとして与えられるものでも あります。日本の元服などに近いものがあるのではないでしょうか。 様々な象徴性のある短剣は物語の要にしたいと思ってます。
† † † おわりに
砂漠の民、ということで砂漠を想像しがちなんですが、最初の話の別荘 のように、今は砂漠だが当時は田園風景であった、というのもあるよう です。またアラビア文学特有のイスラム文化色はこの話では抑えめと なっています。それ抜きには語れないというほどに根幹をなしている 所ですが参照程度となっています。しかしアラド王の行動はある美徳 を意識したものとなっています。
アラビア文学を土台にしたものをどう作るか?というのは私も中々 考えがまとまらずどうしたもんかと思ってました。今回はたまたま 読んだ小説をヒントにして組み立ててみましたが、まだまだ改良の 余地はたくさんあるような気がします。三話ずつに区切り、様々な テーマごとに作っていくのはどうだろうか?とか。まだまだやれる事 はありそうなのでまた今度アラビア風のものに挑戦してみたいと思います。